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「これ、春凪の……」
と、路地の向こうからカチャッと金属が触れ合う音とともに私の名前をつぶやく声が聞こえてきて。
私からは死角になっていてお姿は見えないけれど、即座に
(宗親……さんっ⁉︎)
だと思った。
好みのどストライクだと、初対面で脳が即座に認識した彼の低音イケボを、私が聞き間違えるはずがない。
カフェ『Red Roof』で住むところを失ったショックに打ちひしがれていた時、宗親さんにあのキーを手渡して、愛車を運転して頂いたことがある。
真っ赤なハートのチャームを手にした宗親さんに違和感を覚えたのを思い出した私は、あの特徴的なキーホールダーのお陰で、彼が道端に転がったそれが私の持ち物だと気付いて下さったんだと確信した。
そのことに勇気づけられた私は、首絞めの恐怖で声が出せない代わりに、足をジタバタさせて懸命に〝ここにいます!〟と訴える。
首を絞められているせいで、意識が朦朧としてきた所で、私の上から康平が押しのけられる気配がした。
一気に流れ込んでくる空気とともに、固い地面からふわりと抱き起こされて。
「春凪っ!」
そのままギュッと強く抱きすくめられて、作業服に顔を押し当てられた私は、嗅ぎ慣れた大好きなマリン系のコロンの香りを胸一杯に吸い込んで、安堵感に包まれる。
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