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「宗親、さ……」
(急いで来るっておっしゃってたけど……着替えもせずにいらしたんですね。ホント、どこまでこの人は私にべったりなの)
ショックが強すぎたからかな。
そんなどうでもいいことを思いながら恋焦がれた愛しい人の名前を呼んだら、緊張の糸がプツリと断ち切られたみたいに一気に涙腺が崩壊した。
涙に滲む視界の中。康平が宗親さんに突き飛ばされたその足で、路地の奥の方。こちら側とは反対の通りに向けて逃げて行くのが見えて。
それを目の端に捉えた私は、ヒクヒクとしゃくり上げながら「康、平、待っ、て!」と必死に手を伸ばした。
宗親さんがそんな私をしっかり抱きしめて、逃さないみたいに腕の中に閉じ込めると「春凪、あんな男のことはいいからっ」っておっしゃるの。
けど……私、康平を追いかけなきゃいけないんだよ。
だって、私、彼に大切な指輪を奪られたまま――。
返してもらえていない。
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