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宗親さんの腕の中。
逃げ去っていく康平に必死に手を伸ばして「私、あの人、を追、いかけな、きゃ……いけな、いん、ですっ」と泣きじゃくったら、宗親さんが無言で立ち上がった。
そのまま私に手を伸ばしてその場に立たせると、「少し待ってて」と残して、ちょっと先に転がった私の鞄を手に戻っていらして。
「もし僕があげた指輪を奪られたとかそんなことを気にして言ってるんだとしたら……本気で怒りますよ?」
とゾクリとくるほど抑揚のない静かな声音で言われた。
宗親さんはいつもいつも私の左手薬指に自分が渡した婚約者の証があるかどうかを気にしていた。
この状況下でもそこに気付かれないわけがなかったんだと、私はますます溢れ出す涙を止められなくなる。
「……でもっ、あ、れは……宗、親さ、に頂いた、大、切なも、のでっ。だ、から……私っ……。――きゃっ」
諦めるわけにはいかないのです、と続けたかったのに、無言で距離を詰めていらした宗親さんにいきなり膝裏をすくわれて。
あれよあれよといううちにお姫様抱っこをされてしまった私は、その言葉を最後まで言わせてもらえなかった。
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