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「宗親、さっ、……わ、たしっ」
「もう黙りなさい、春凪。指輪なんかよりキミの手当ての方が大事だってどうして分からないんですか?」
まるで会社にいる時みたいに命令口調でピシャリと言い切られて、私は何も言えなくなってしまう。
宗親さんが物凄く怒っていらっしゃるのが、その雰囲気からひしひしと伝わってきて。
私がしっかりしていなかったから……指輪を奪われて怪我までさせられて……。
きっと宗親さんの逆鱗に触れてしまったんだって思った。
「ごめ、なさ……っ」
康平に言われた、『こんな高そうなモン、失くしたとなったら婚約破棄かもな?』という言葉を思い出した私は、『お願い、見捨てないで』って思いに支配されて、宗親さんの首筋にギュッとしがみつきながらポロポロと涙を落として。
しゃくりあげすぎて声に出来ない分、心の中で懸命に宗親さんに許しを乞うた。
ふと視線を落とした先。
ラベンダー色のワンピースの胸元が、さっき康平にボタンを外されたまま、はしたなく着乱れていて……。
それが私の不始末の名残みたいに思えてちくちくと胸が痛んだ。
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