36.一番大切なのは*

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 家を出るたびに顔を合わせないといけないその人たちに、お姫様抱っこで登場!なんて、結婚式さながらのパフォーマンスは見せられないじゃない。  そんなことを思いながら、すぐそばの宗親(むねちか)さんの様子を(うかが)うように見上げたら、何だかすごく寂しそうな顔をした彼と目が合ってしまった。  途端、何とも言えない罪悪感に包まれた私は、ちょっとだけ考えて、「でも……腕は貸して頂けたら……嬉しい……です」と小声で付け足してみる。  宗親さんは「お安い御用です」と即座に応えると、私の手を半ば強引に自分の腕に引き寄せた。 「僕に全体重預けてもらって構いませんからね?」  その声にふと顔を上げた先。  宗親さんからこれ以上ないと言うくらいの優しい笑顔を向けられて、私は胸元を掴んだままの手にギュッと力を込めて、思わず彼から視線を逸らした。  宗親さんにこんな表情(かお)を向けてもらえる資格が、今の私にはない気がして。  一刻も早く、康平に触れられたおぞましい感触を、熱いシャワーで洗い流したい――。
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