36.一番大切なのは*

16/17
前へ
/720ページ
次へ
春凪(はな)、お願いですから少し落ち着いて? 大丈夫だから」  下着姿の私を、宗親(むねちか)さんが鏡から覆い隠すみたいに真正面からギュッと抱きしめて、切なくなるぐらい苦しそうな声音でそうおっしゃる。  私は泣きながら、目の前の宗親さんにしがみついた。  ――涙と鼻水が彼の胸元を汚してしまうかも知れない。  そう思うのに、泣くのも抱きつくのもやめられなくて。  宗親さんが心底愛しい、と伝えてくれるみたいに、そんな私の身体を包み込んで下さるのが堪らなく心地よかった。 「春凪、お風呂に入りましょうか」  どのくらいその状態でいたのか分からない。  でも泣きすぎて頭がボーッとしてしまう程度にはそうしていたのかな。  泣き疲れて判断能力の鈍った頭は、日頃だったら絶対に「不可」だと判断するはずの宗親さんとの入浴を「可」にしてしまった。  小さくコクッと頷いたら、私から腕を緩めた宗親さんが、あっという間に裸になって。  彼の、彫刻像のように磨き抜かれた肉体美に照れてドギマギしているうちに、私もなけなしの下着を取り払われていた。  もちろん一線を超えたことがある相手だ。  裸で抱き合ったことだって何度もあるはずなのに、薄暗い寝室と違って煌々(こうこう)と明るい照明の下で宗親さんと肌を触れ合わせているんだと思ったら、必要以上にドキドキしてしまう。
/720ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2313人が本棚に入れています
本棚に追加