37.落とし前をつけてもらいましょう

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 本当は捕まえるべきだったのかも知れない。  だけど男のことなんてどうでもいいと思ってしまうほど、僕は傷ついた春凪(はな)から目が逸らせなかったんだ。  僕が春凪と一緒にMisoka(ミソカ)へ来られていたら――。  今更思ったって仕方のない〝たられば〟が頭の中を駆け回って、どうしようもなく自分に腹が立った。  それと同時、春凪をこんな目に遭わせた男の事を絶対に許せないと思って。  春凪の手前、努めて冷静に見えるよう装ったけれど、本当はどうしようもないぐらい心が掻き乱されていた。  怪我をした春凪の応急処置をするためにMisoka(ミソカ)に行って明智(あけち)に嫌味を言ってしまったのだって、怒りの矛先を間違えていることは重々承知していたけれど、どうにも感情が抑え切れなかったんだ。  明智には悪いことをしたと思う。  幼い頃から両親に口酸っぱく(しつ)けられてきたポーカーフェイスなんて、春凪の一大事を前にしたら何の役にも立たないことを思い知らされて。  自分の気持ちを表に出すまいと努力すればするほど、不機嫌さが滲み出て、春凪まで(おび)えさせてしまうとか、僕も大概ダメな男だよね。
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