37.落とし前をつけてもらいましょう

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 泣きながら男にされた所業を隠そうとする春凪(はな)から、どうやったら彼女が抱えた気持ち悪さを消してあげられるだろう。  僕は、気が付いたらあの男が付けた(あざ)へ、上書きするみたいに唇を寄せていた。  きっと洗うよりこうした方がいい――。 「宗親(むねちか)さ……」  春凪が僕の名前を呼びながら(すが)りついてくるのを感じながら、僕はそう確信した。 *** 『はい、珠洲谷(すずや)でございます』  コール数回。  午前八時を過ぎたばかりという、小売業者にとってはいささか早すぎる時間帯にも関わらず、通話口からまるで営業時間内ででもあるかのようなきっちりとした声音が響く。 *  泣き疲れたのだろうか。  昨晩、風呂で春凪に求められるままに彼女を抱いた後、パジャマに着替えさせてベッドまで連れて行ったら、春凪はまるで安心しきった子供みたいに僕の腕の中でストンと眠りに落ちてしまった。  僕は一晩中そんな春凪を抱きしめたまま眠って。  春凪の身体を支えていた腕が、甘やかな痺れを訴えてくるのが、春凪の存在を感じられて心地よい。
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