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僕はぐっすり眠る春凪の愛らしい唇に軽くキスを落とすと、彼女を起こさないよう細心の注意を払ってベッドから抜け出した。
そうして〝珠洲谷〟と名乗った、母と同年代ぐらいの実年女性に電話をかけたのだけれど――。
*
「織田です。朝早くから申し訳ない」
『いえ、問題ございません』
名乗らなくてもきっと、僕からの着信だというのは相手にも分かっているだろう。
だからこそ、こんな開店前の時間にも関わらず、にこやかに応答してくれたんだろうし。
そう思いながらも、僕は〝織田〟の一族であることを誇示するように、敢えて名乗りを上げると、早々に要件を切り出した。
「過日僕がフィアンセに送った婚約指輪なんですけど。あれはオーダーメイドの一点物で間違いなかったですよね?」
『もちろんでございます。――もしや商品に何か問題がございましたでしょうか?』
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