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「まさか。指輪自体はとても良い品で気に入っています。ただ、少し問題が起きてしまいましてね――」
僕の言葉に電話口。
珠洲谷さんが構えるように小さく息を呑んだのが分かった。
僕は彼女に二言三言頼み事をすると、「もちろん謝礼はさせて頂きますので、どちらも出来るだけ急いで下さい。既存の書類の方は夕方取りにうかがいますのでそのつもりでご準備の方、よろしくお願いします」と念押しして電話を切った。
***
耐熱用の小さなグラタン皿に、ふんわりご飯を敷き詰めて、麺つゆを回し掛けてから軽く混ぜ合わせて味を見る。
(こんなもんかな)
あまり濃い味にしたら、弱った春凪の身体に差し障りが出るかもしれない。
かといって味気ないのも美味くないし。
後でチーズを載せることも考えて、気持ち薄めかな?という塩梅に調整すると、ご飯の真ん中を窪ませてそこに生卵をひとつ落とした。
その上にプロセスチーズで出来た「濃厚」「クリーミー」が売りの、とろけるスライスチーズをのせて炒りごまを散らしてからオーブンへ。
チーズの焼かれる香りがキッチンに充満し始めたころ、春凪がまだ寝ぼけているのかな。
少しトロンとした表情で、寝室から出てきた。
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