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春凪がほたるさんと時折笑顔を交えながら電話で話すのを流し側に戻って眺めながら、僕は少しだけホッとする。
起き抜けの春凪は、寝起きなことを差し引いても表情に起伏がなくてすごく心配だったから。
春凪が話している間に僕はリビングに行って、引き出しに仕舞い直しておいた書類と、タイミングを掴み損ねてずっと持ち歩いていた小箱をリュックから取り出す。
どちらも、いつまでも寝かせておいても仕方がないものだ。
そこでふとカレンダーを見た僕は、心の中で〝よし〟とつぶやいた。
***
「すみません。ご飯、冷めちゃいましたかね?」
「大丈夫だよ。逆に食べやすいくらいに程よく冷めたんじゃないかな?」
リビングから再度カウンター内に戻っていた僕は、電話を終えて席に着いた春凪の横に自分のグラタン皿を置きながら、「飲み物は冷たいお茶でいい?」と問いかけた。
「あっ。飲み物ぐらい私がっ」
春凪が腰掛けたばかりの椅子から立ちあがろうとするから、僕はそれを片手で制した。
「カウンター内にいる僕の方が冷蔵庫に近いから」
春凪がお茶の用意をするとなるとカウンターを回り込んでこなくてはいけない。
非効率的だよ?と言外に含ませたら、春凪はそれでも何もしないで待つことを申し訳なさそうにするんだ。
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