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僕が好きな、春凪のそう言う真面目で思いやりのあるところが、今はちょっとだけ恨めしい。
弱ってる時くらいもっと僕に甘えてくれて構わないのに。
氷を浮かべた冷たい麦茶入りのグラスを二つ手にして春凪のそばへ行くと、各々のグラタン皿の横にそれらを置いて、僕は春凪の隣に腰掛けた。
「食べようか」
僕が座るのを律儀に待ってくれていた春凪が、コクッと頷いて「いただきます」をする。
その所作の美しさを横目で見ながら、僕は彼女のことが好きで好きで堪らない、と改めて実感した。
「美味しい……」
とつぶやいた春凪をうっとりと見つめながら、
「――ほたるさん、喜んでた?」
ふと思い出したように聞いたら、春凪が口の中のものをコクッと飲み込んでからパァッと表情を明るくした。
「すっごくすっごく幸せそうでした!」
自分が酷い目に遭ったことを吹き飛ばしてしまうくらい、友達の幸せは春凪の特効薬になったみたいで。
愛しい彼女の心からの笑顔に、僕はつられて笑顔になってしまう。
もちろん僕だって、明智の幸せ報告を喜んでなかったわけではないけれど、春凪ほど我が事のように喜べていたか?と聞かれたらきっと否だ。
つくづく春凪は、僕に足りないものを持った子だな……と思って。
自分には春凪が必要不可欠な存在だと思い知る。
「それは良かった。――今度ほたるさんや明智も交えて四人で集まれたらいいね」
言いながら、僕はカウンターに置いてある卓上カレンダーを見た。
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