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「これからは婚約指輪の代わりに結婚指輪を付けていてくれない?」
エンゲージリングと一緒に購入しておいた、あれより遥かにシンプルなデザインのマリッジリング。
出す機会を計れなくてずっと持ち歩いていたそれを彼女の前に置きながら言ったら、春凪が瞳を見開いた。
失ってしまった婚約指輪は、石が大き過ぎて何かするたびに春凪が指から抜いていたのを僕は知っている。
でも表向きゴテゴテと飾り立てるように石のついていないこのリングなら、その心配もないだろう。
敢えて裏側に一石だけ嵌め込み式で入れたブルーダイヤも、内側だから石が傷ついたり外れたりする心配もしなくていいはずだ。
内側には石だけじゃなく「M to H」の刻印とともに、〝BAE〟と彫り込んである。
これは「Before anyone else」の頭文字で、「誰よりも大切な人」と言う意味なんだけど、とどのつまり僕の自己満足だし、春凪には通じなくてもいいと思っている。
「僕も、今日から同じのを付けるから。――ね?」
リングケースの中に二つ。
寄り添うように並んだプラチナ製の結婚指輪を見て、春凪が泣きそうな顔をするから。
僕はそんな春凪のことを壊れそうなくらい目一杯抱きしめたいと思った。
そんなことをしたら春凪が痛いだろうから出来やしないんだけど。
でも――。
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