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「春凪。長いことお待たせしましたね」
そう言って宗親さんが、こうちゃんに奪われたはずの婚約指輪を私の前に差し出してくれたのは、入籍から一ヶ月半後のことだった。
「あの……こう……あの人は」
こうちゃん、と言いそうになって何となくそんな愛称でいつまでもあんな酷い元カレのことを呼ぶのが憚られた私は、敢えて〝あの人〟と言い直して。
「警察に捕まりました。キミに怪我をさせていますし、指輪も奪っている。転売目的で質屋に来た所を捕まりましたので、情状酌量の余地はありません。強盗致傷罪で実刑は免れないと思います」
底冷えするほど冷徹な声音で淡々と告げられた宗親さんの声音に、私はゾクリと肩を震わせる。
*
宗親さんに付き添われて、警察へ被害届を出しに行ったのは、康平に酷いことをされた二日後――入籍日の翌日のことだった。
法律上でも私の夫となったことで、宗親さんは動きやすくなったのかな。
元カレにされたことを思い出すだけで身体が震えて言葉に詰まってしまう私を、宗親さんはずっとそばで支えていて下さった。
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