38.心を鬼にして

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 宗親(むねちか)さんがいなかったらきっと、私は何も出来ずに泣き寝入りをしていたと思う。  それでも日が経つにつれて、私が被害届を出したことで自分に縁のあった相手が犯罪者になってしまうかも知れないと思うと何だか落ち着かなくて。  あちら側の弁護士を通じて、宗親さんが手配して下さったこちら側の弁護士に被害弁償や示談交渉の申し出があったとき、私は少なからず心が動いてしまったのだけど。  宗親さんはほたるから、康平が長いこと私を付け狙っていたことを聞かれたみたいで、しっかりと罪を償わせた方が彼のためだと仰った。  康平と付き合っていたころ、私は彼にとことん甘かったと思う。  私をふったのは彼のはずなのに、Misoka(ミソカ)付近で襲われたあの日、全部私が悪かったみたいな口振りで話してきた康平の言動を思い出した私は、宗親さんやほたるの言葉に、甘い気持ちを懸命に心から追い出した。  きっと康平は、私が彼のことを気にかけても、ちっとも意に介さない。
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