38.心を鬼にして

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*** 「せっかく取り戻して頂いたのに……これをする機会って……きっと、もう数えるくらいしかないですよね」  大きなダイヤが輝く婚約指輪を眺めながら、ホゥっと溜め息をつく。  はめるたび、指が腫れてしまいそうに思えた大ぶりのダイヤの両サイドに、小さなダイヤが三つずつ配された煌びやかなデザインのエンゲージリング。  付けることを宗親(むねちか)さんに強要(?)されていた時には「目立ちすぎてしんどい」と思っていた指輪だったけれど、いざ以前みたいには付けていられないのかな?と思ったら、ワガママだけどちょっぴり寂しくなった。  婚約指輪は、その名の通り婚約している人がつける指輪だと思う。  結婚したら旦那とペアになった結婚指輪を付けるのが普通だ。  婚約指輪も、ものによっては結婚指輪との重ね付けが出来るらしいけれど、私が宗親さんに頂いたこれはそれを許してくれるような控えめなデザインではなかったから。  今後この指輪を付けられる機会があるとしたら、例えば華やかな晴れの席――友人知人の結婚式や、二人の記念日など――以外にはないんじゃないかな?と思って。 (でも――)  この指輪を見ると、康平とのことを思い出してゾクリとしてしまうのも否めない。
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