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チーズに誘われるように宗親さんのそばを離れたと同時、背後で彼が私を呼び止める声がしたけれど、鼻先に大好物をぶら下げられた私の耳は意図的にその声をシャットアウトした。
(宗親さん、ごめんなさいっ)
***
「――実はね、そろそろ統和さんの誕生日なの」
ボックス席に移動するなり背後の明智さんをチラチラと気にしながら、ほたるがそう囁いて。
私もつられて小声で「いつ?」と聞き返していた。
「この三十日。ね、知ってた? ここの店名がMisokaなのは統和さんが晦日生まれだかららしいの」
「えっ、そうだったの⁉︎」
初めて聞くこの店の名付けの由来に(なるほどぉー)と思ったと同時、(もし明智さんがもう一日遅く生まれていらしたら、店名は『Oh! Misoka』とかだったりしたのかしら?)とかどうでもいいことを思って、心の中で一人笑ってしまう。
「春凪、いま変なこと考えてたでしょ?」
「えっ」
顔に出してニマニマしたつもりはなかったのに、さすが親友、丸っとお見通しみたいです。
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