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『仕事が忙しかったりしてみろ。お前が選んだあの子は、自分を優先して体調不良を訴えてくれるようなタイプか?』
母を援護するみたいに、父からもそう言われてしまった僕は、グッと言葉に詰まった。
実際、春凪はもう少し自己本位でもいいのにと常日頃から僕も感じるぐらい周りに気を遣う女性だ。
クソ男に襲われて自身がボロボロになっていた時でさえ、坂本さんのことを気にしていたくらいだから。
そんな彼女が、仕事を続けていて妊娠時にありがちな体調不良を訴えたりすることが出来るのか?と問われた僕は、何も言えなくなってしまった。
「それで〝織田の嫁〟って言葉が出たわけか。柴田さん――じゃなくて春凪ちゃ……、っと嫁さん本人はどう言ってんだよ」
目の前の明智が、「柴田さん」呼びを避けて「春凪ちゃん」と呼びそうになったのを、すぐさま睨みつけて制したら「嫁さん」と当たり障りのない呼び方に路線変更した。
僕だって明智が坂本さんと付き合うようになってからは〝ほたるさん〟と呼ぶのをやめたんだ。
そのぐらいの配慮はしてもらわないと困る。
「春凪は最初僕のそばを離れたくないようなことを言ってごねてたんだけど――。うちの両親と話してからは辞める方に傾いてる」
春凪は、僕との子供が欲しいらしい。
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