2311人が本棚に入れています
本棚に追加
/720ページ
「あの時さ、明智が坂本さんと付き合うことになってくれて本当に良かったって思ってるんだ」
「あ? 何だよいきなり」
急に話の矛先を変えたから、何を言い出すんだ?と思ったんだろう。
明智が僕の方を怪訝そうな顔で見つめてきた。
「煮え切らない態度の情けないお前をけし掛けたのは確かに僕だ。けど、明智があのとき僕の忠告通り素直に動いてくれたお陰で春凪が立ち直るきっかけをもらえた。――そのことを僕は本気で感謝してるんだよ」
明智と坂本さんの幸せいっぱいのニュースが、暗く沈んでいた春凪の心を泥の底から引き揚げて笑顔にしてくれたのを、僕はつい先日のことのように覚えている。
「別に礼を言われるようなことはしてねぇけど……。でも、まぁあの子はそういうタイプだもんな。少しでもお前の嫁さんが立ち直るきっかけになれたってんなら良かったよ」
明智が、手にしていたグラスを空にして、「新しいの何にする?」と、先に空っぽになっていた僕のグラスを指さした。
さっき飲むピッチを落とせって言ったくせに、まだ飲ませる気なんだな。
そう思ったら何となくおかしくなって、口の端に微かに笑みが浮かんだ。
最初のコメントを投稿しよう!