40.記憶と結びつくもの

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 だって、何につけても卒のない宗親(むねちか)さんが、お食事の場で香水の試し付けをしたりなさるわけなかったんだもの。  宗親さんの腕に載せた手指に力を込めて訴えたら、小さく吐息を落とした宗親さんが壁に掛けられた時計を見て。 「十八時か。予約は二〇時ですし、シャワーを浴びて着替える時間は十分にありますね」  今日は定時には上がったらしい宗親さんは、十七時過ぎには帰宅なさっていた。  予約したホテルまでは車で十分とかからないから確かにまだまだ時間にゆとりがある。  まるで自分に言い聞かせるみたいにそうおっしゃった宗親さんに、私はこの機を逃すまいとコクコクと(うなず)いた。 「もちろん、春凪(はな)浴びるでしょう?」  冬なので汗なんてかいてないし、このまま宗親さんが用意して下さったフォーマルドレスに着替えてもいいかな?と思っていた私は、当然キミも入るよね?みたいな宗親さんの言葉にドキッとしてしまう。  私の背後で宗親さんのは未だに元気なままだし……これって絶対。 「あ、あの……」  オロオロする私をサッと抱き上げて、宗親さんがニコッと極上のを向けてきた。 「さすがにそんな色っぽい顔で僕を煽っておいて、放置したりはしませんよね、奥さん」  宗親さんっ。  私が彼の(たかぶ)りに気付いていたの、絶対ご存知ですよね?  っていうかひょっとしてわざと押し当ててたり――っ!?  宗親さんの久々の腹黒スマイルは、絶対にとしか思えなかった。
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