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「……春凪、今なんて言おうとしたの?」
なのに。鏡の中から宗親さんが私を熱のこもった目で見つめてくるから。
私はソワソワと視線を彷徨わせる。
「お願い、聞かせて?」
分かってるくせに言わせようとするなんて、意地悪!って思う一方で、こんな風に情事の時は子供みたいに真っ直ぐに私をいじめてくる宗親さんのことを何て色っぽいんだろう、ともぼんやりとした頭で思ってしまった。
そんな私に、彼が再度言葉を連ねてくるの。
「ほら、この可愛い口で――」
言うなり、懸命に引き結んだ私の口の端を優しくほぐすみたいに宗親さんの指が割り入ってくる。
シャワーの水音にかき消されても不思議じゃないはずなのに。
宗親さんの囁くような低音ボイスも、彼が私の口中をかき回すクチュクチュという微かな音も、何故か鮮明に私の中に響いてくるから。
「あっ。ダメっ、むねち、きゃさっ……。ぁんっ」
ただ舌先や歯列、口蓋をゆるゆるとなぞられているだけなのに、ゾクゾクと背中に甘い痺れが走ってしまう。
気が付けば、私は熱に浮かされたみたいに宗親さんにおねだりしてしまっていた。
「嫌だッ、もっ、焦らしゃな、ぃ……でっ」
生理的な涙がじんわり目端に滲んで、私はわざと媚びるみたいに宗親さんの指先を吸い上げながら必死に鏡越し、彼の目を見詰める。
「ここに……、お願っ」
それだけならまだしも、無意識に背後の宗親さんの昂りを自分の蜜口に誘い込みたいみたいに腰が動いていた。
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