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二月の半ば。
当初は年明け早々と思われていた宗親さんの神代組退職だけれど、思いのほか引き継ぎに時間を要して。
梅の花が満開を迎えるころになってやっと。宗親さんはオリタ建設の副社長に戻られた。
私も宗親さんの後を追うように、入社して一年も経っていなかった神代組を後ろ髪を引かれながら辞めたのだけれど。
結果的にはそれで良かったのかもって思っています。
***
「春凪、ただいま」
帰宅するなり玄関先で私をギューッと抱きしめて。
宗親さんがまるで丸一日離れていたすき間を埋めるみたいに私の髪の毛に鼻を押し当てて大きく息を吸い込んだ。
「ああ、春凪の匂い、やっぱりいいなぁ。――すっごく落ち着きます」
これは一緒に働くことが出来なくなってから、毎日のように繰り返される帰宅後の儀式。なのに私は全然慣れることが出来なくて、未だにやたらと照れてしまうの。
「あ、そうだ。これ」
宗親さんは手にしていた小さな紙袋を私に差し出すと、
「今日は明智からプロセスチーズの味噌漬けと、酒粕漬けを勧められたんだ」
それを受け取った私ごと、再度ギュッと抱き締めていらした。
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