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「春凪。今日は随分顔色がよさそうだね。夏凪が来てくれて気晴らしになった?」
そっと労わるように私を腕の中に抱き寄せて、宗親さんが静かに問い掛けてくる。
耳を揺らす低音イケボは、私が大好きな極上の旋律。
「――はい。すっごく」
私のお腹の中には今、宗親さんとの赤ちゃんがいます。
もう、それだけで幸せ一杯のはずなんだけど――。
つわりが酷くてここ数週間ご飯がまともに食べられない私は、日がな一日リビングのソファや寝室でダウンしていることが多かった。
努めて水分だけは摂るようにしてはいるけれど、固形物を食べるのは本当にしんどくて。
大好きなチーズでさえもにおいに吐き気を催してしまう始末。
そんな中、果物だったら比較的食べられることが多い私を気遣って、宗親さんは帰宅するたびに高級そうなフルーツを手土産に持ち帰って下さる。
今日は蜜のたっぷり入った艶っつやのリンゴだった。
宗親さんが皮を綺麗に剥いて、食べやすい大きさに切って下さったそれを、楽しみなことが出来たからかな? いつもより沢山食べられた気がする。
そんな私を見て、宗親さんが嬉しそうに微笑んで先の言葉を投げかけてきたのだけれど。
「はい。綺麗な金平糖をいただきました」
本当に気分がいいのはそこじゃないのだけれど、夏凪さんとの約束だからアルバムのことは秘密。
背後の宗親さんをそっと振り返ったら、優しく微笑み掛けられた。
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