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「春凪はね、とっても分かりやすいんですよ。本当可愛い」
ここへ来て今度は〝可愛い〟のチョイス。
宗親さんはどれだけ私を振り回せば気が済むんだろう。
ホント酷い人……。
そう思って彼を見詰めたら、スイッと近付いて来た宗親さんに、いきなり手の甲へ口付けられて、私は「ひ、ぁっ」と変な声が出てしまう。
「僕がね、綿密に計画を練ってことを運ぶのは本当に欲しいものが出来た時だけです」
ニヤリと極上の腹黒スマイルを浮かべられて、私は彼のそういう言動の全てが計算のうちなんだと解っていながらも、頬が赤らんだのを感じて。
その顔を宗親さんに見られたくなくて思わずうつむいた。
宗親さんを好きな気持ち、ご本人には絶対に勘付かれたくないのにっ。
こんな風にちょいちょい甘い雰囲気を挟んでこられたら、今にもボロが出そうになって困るじゃないっ。
最初から利害の一致からきた偽装結婚なのに、その相手に本気になってしまうのほど愚かなことはない。
そう解ってはいても――。
私は自分の気持ちを押し殺したくて、無意識にウィスキーの入ったグラスをギュッと握りしめた。
結露に覆われたグラスに、手の熱がじわじわと奪われて、「身のほどを弁えろ」と言われている気がして――。
私は中身をぐいっと飲み干すと、宗親さんを睨むように見据えた。
「宗親さん、おかわりくださいっ! 今度はロックで!」
飲まずにはいられない気持ちになった。
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