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「お願いします! どうかスニーカーの足跡を付けすぎないでください!」
俺は誠心誠意、土下座をした。
目の前の玉座で踏ん反り返っているのは、日本下駄協会の会長。
40歳にして頂点まで上り詰めたエリートだ。
彼は吹かしていた葉巻を呑み込んで言った。
「オメェは……ゲホゲホ……下駄職人の辛さを
……ゲホゲホ……何も分かっちゃいねぇ。
皆、自分の命を……ゲホゲホ……削って生きてんだ」
また説教かよ。その文句はもう聞き飽きた。
葉巻を呑み込む癖も変わっていない。
「正直なところ、あなたたちの苦労は理解しかねます。
理解しかねるからこそ、俺は実家を出たんです」
俺の血は沸騰し、煮え滾っていた。
「兄さん、あなたが下駄職人にパフォーマンスをさせたのは、
俺の気を惹くためでしょう?」
会長、いや兄さんは、眉間にシワを寄せた。
向こうも確実に怒りを露わにしている。
「馬鹿が……グフッ……オメェがさっさと帰ってこねぇからだろうがよ!
18歳になった途端に家を飛び出して。
昔、俺ら二人で坂越家と下駄を盛り上げていくって言ったよな?」
そうだ、俺は高校を卒業してすぐに一人暮らしを始めた。
実家である坂越家は下駄屋。
兄弟一緒に下駄屋を継ぐことを本気で夢見ていたこともあったっけ。
でも、物心ついた頃には、下駄業界の力の弱さを知った。
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