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 「あんな役にも立たない履物をどう盛り上げるんですか?   スニーカーの方がよっぽど未来がありますよ」 足跡マーケティングを始めたのもそれが理由。 高校生のときに存在を知り、俺はのめり込むことになる。 色々な履物の裏側を見られるのが楽しくて仕方なかった。 それぞれに異なる良さがあって、胸が躍ったよ。 だが、見たくなかったものが一つだけ。下駄の足跡だ。 ただでさえ日常生活で履かれないのに、足跡にもまるで面白みを感じない。 絶望さ。こんな履物と一生添い遂げると思ったら、嫌気が差してきた。  「オメェは履物を商売道具としか見ていねぇらしいな。   それは大間違いだ。少なくとも、下駄には……信念がある」 信念? 笑わせてくれる。見た目もみすぼらしければ、機能性も皆無。 加えて、足跡も鑑賞する価値無し。正直、終わっているのだ。 「兄さん、話し合うだけ無駄です。俺は帰らせてもらいますよ」 「まぁ、こいつを見てみろ」 兄さんは何か石板のような物を俺の眼前に持ってきた。 「これを見てもなお、下駄を見捨てるか?」 どうせまたつまらない……う、美しい! もしやこれは、世界中のあらゆる履物の足跡を重ね合わせた芸術作品!? 三角形や台形といった大小様々な図形の配置場所が絶妙で、 滑らかな曲線は全体を引き締める役割を十二分に果たしている。 間違いなく一級品だ。けれども、何かが足りない。 他を凌駕する強いインパクトを持つ何かが。
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