プッソ・モディリアーニの悪意によるオンライン自殺の伝染

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《接続》  あッ、繋がったか! よかった……僕だ、「タカヒロ」だ……いや、君、そこにいないのか!?  タブレットの「ビデオ通話」を繋ぎっぱなしで外出したのか。  なあ、その辺にいないかッ!  早く出てくれ、キッチンかトイレにいるんじゃあないのか。水を流す音が聞こえるぞ……君の「トイレ音」か?  話がある、大事な話なんだ、すぐにタブレットの前に来てくれ。  ……本当にいないのか。……電話も通じねえな……  ああ、こういうのは本当に頭にくる……  そういうとこだよなあ!  なんで携帯電話を携帯しないんだ、スマートフォンの「スマート」って「賢い」って意味なんだぞッ、持ってるやつが馬鹿でどうするんだ! この馬鹿ッ!  いいか、外出してるんなら早く戻って来いッ。そして俺の話を聞け! ……  ……いいね。落ちつくんだ……時間はもうないけれど……よく聞くんだ。  もうすぐ君に、「ビデオ通話」がかかってくるだろう……  発信元は男だ……名前は……『プッソ・モディリアーニ』という。  いいか、そのビデオ通話には絶対に「出ちゃいけない」……絶対にだ。  もし出てしまったらすぐに切れ。  最後まで話を聞くな。  そのビデオ通話は全部で「二分」ほどらしい。だが決して最後まで聞いてはいけないんだからな…… 『プッソ・モディリアーニ』を検索してもいけない。  特に「SNS」ではやめるんだ……。君だけじゃなく他の人も見てしまうから……。  どうしてもしたけりゃあしてもいいが、検索しても誰も知らねえようなちっぽけな画家が出てくるだけだッ! 『プッソ・モディリアーニ』には決してたどり着けねえ……    ビデオ通話だけではないのかもしれない……もしかしたらメールやDMで連絡がくるかもしれない……  それでもとにかく、「プッソのプの字」でもあったら絶対にそのメディアを開くな……いや、しばらく、何の「着信」があっても出るんじゃあない……  何が起きるかって、お前ももう聞いてるかもしれねえな、けっこう話題になってるぞッ。検索して知ってる奴もいるッ! 「自殺」だッ!  見た者は「自殺」しちまうんだ!  厳密には自殺と言えるかどうかわからねえけどよォー、何しろ無理やり「死なされる」わけだからなーッ!  ウイルスみたいなもんだ、誰も広めなければそれで終わるのによォ、広めたいやつが広めるから広がっちまう……  それを止めることは絶対にできない……『プッソ・モディリアーニの悪意』は「伝染」する……    昔流行った、映像による「サブリミナル」ってやつかと思ったんだよ、最初は……でもどうやら違うんだ……  あれはもう一つ信用度に欠けるらしいけれど、こいつはマジなんだ……  お前、「不幸の手紙」とか「チェーンメール」って知ってるか? ……  人間が何かをするとき、殴るより、目玉をホジくりだすより、一番強力な力を持つのは、「悪意の伝染」だ。  「病気や貧困」も悪意が広めるッ! 毒ガスも爆弾も、天災だって「悪意」が威力をハネ上げるッ!  悪意ってのは、ものを知らねえってことも含めるし、「理性がない」ってことも含める!  人間は、月に立ったって、「素粒子」を見つけたって、悪意で絶滅するんだッ!  もう人間「死んで終わり」の時代じゃあない! 全ては伝わって残る! 悪意は死をも超越するッ!  人間はただ生きることはできねえ、でもただ死ぬことはできる! 「自殺」は自由だ!  生きたくても生きられねえ人間はいても、死ねねえ人間はいねえからだッ! 「自殺」の方法は色々だぜ……首吊りだったり……  アメリカじゃあ銃持ってる奴が、ムカつく奴の誕生日にいたずらで口に突っ込むクラッカーみてえにブチかましたり……とにかくどうあっても「死なされる」……  そんな動画が拡散している……君は見るなよ……検索してはいけない……ビデオ通話には出るな……  そうだ、これも見てはいけない……そこにいないなら……好都合だ……僕の方からデータを消しておかなくては……君が見る前に……  ……だが、一番手っ取り早いのは「包丁」だ……どこの家にでもあるからな……  俺が持ってるこれも……「うちの包丁」だ……  いいか……忘れるな……  プッソ・モディリアーニだ……  プッソ・モディリアーニを忘れるなッ!  プッソ・モディリアーニだ……  プッソ・モッ 《2:29》 《2:30》 《2:31》 《2:32》  ………… ■  その日、私はトイレから出ると、面倒なので放置していたタブレットの画面に、タカヒロからのビデオ通話が入ったことに気づいた。  そしていたずら心で、カメラに映らないよう横合いから見ていた。  タカヒロは一人で、何とかいう外国人らしい名前をわめき立てていた。  二分三十秒頃、タカヒロが自分の首を包丁でかっ切り、画面の向こう側が血で真っ赤に染まった。  それ以降は、向こうの画面が動くことはなかった。  私はとりあえず、キッチンに行って包丁を取ってきた。  大変なことだ。早くみんなに知らせなくてはいけない。  私は適当に発信先を探した。  友人が一人、ビデオ通話をつないでくれた。  私は急いで話し始めた。 「プッソ・モディリアーニからビデオ通話が来ても、話しちゃいけないんだって……  特に、最後まで見聞きしてはいけない……  ……  プッソ・モディリアーニっていうのはな……検索しても誰も知らねえような画家が出てくるだけで……」 終
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