蹲る人

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いつしか真っ暗闇の中にいた。 どこに向かえば良いかわからない。 向かうべき場所があるのかもわからない。 ……別にいいか。 やりたいことがあるわけじゃない。行きたい場所があるわけじゃない。 ……あったかもしれないけれど、忘れてしまった。 なら、もういいか。 このまま静かに消えていこう。 音もたてないように蹲って、ふと気づく。 足元に残る楕円形。 振り返る。同じものがたくさんあった。 いや、よく見れば同じじゃない。少しずつ違う。 大きさが違う。幅が違う。深さが違う。 世界はこんなにも暗いのに、地面に残るその跡だけは何故かはっきりと見えた。 全部残っている。忘れてしまっても、消えないでいる。 立ち上がって、一歩踏み出してみる。 また新たな軌跡が出来る。 ……もう少し、進めるだろうか。まだ、歩くことは出来るだろうか。 目的が無くても。 向かう場所を忘れてしまっても。 歩くことで、何かが生まれるだろうか。 顔を上げる。目の前には変わらず暗闇が広がっている。 足跡一つない暗闇が広がっている。
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