マクと旅人

4/6

9人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
「ああ、旅の者だ。だから仕事はしてない。」 小汚い格好だから、山で山菜を取ってきたのかと思っていた。 だが、おじさんは旅人だったのか。 確かに言われてよく見るとそういう感じもする。 「嘘じゃないよね?」 「俺が旅人なんて嘘つくか。嘘つくんならもっとましな職を言ってるぞ。国の兵士……とかな。」 「いや、旅人っていいじゃないか。知らない土地へ歩き回って、色んな人に出会う。本で読んだけど、少年の頃はみんなの憧れさ。」 僕はそうやって旅人の想像をする。 「まあそうだな。今だって俺は君に会えて楽しい。でも旅は危険でいっぱいだ。俺と一緒に旅をしていたやつが1人死んだ事がある。だから、旅をするならそれなりの理由がある方がいい。」 僕はおじさんの話を聞きながら、おじさんの表情を伺う。 顔が曇ったかと思うと、ふと僕に気づいてにっこり微笑む。 「おじさんも大変なんだね。」 「ああ、大変だ。夢を壊すようで悪いな、マック。でも俺はこの生活が好きだぞ。死んだ友人に会えたのも、俺が北へ向かっているおかげだからな。」 おじさんは手首を上下にひねって、グラスの中のウイスキーを回した。 おじさんは今何を思っているんだろう。 僕の想像がつかない事かな。 ボーッとウイスキーを見つめるおじさんは、そのままクイッとウイスキーを煽った。 そして一息つく。 「ふぅ。さあ、旅の話を聞くか?マック。おじさんが七色に輝くカメレオンを捕まえた話をしよう。」 「えっっ!何それ」 「珍しいと思ってな、金になると思って血眼になって捕まえたんだよ。俺が渓谷の多い土地を歩いていた時のことなんだが……」 僕はおじさんの旅の話を聞いた。 七色に光るカメレオンの話。 「……んで、素早く逃げたカメレオンがな、大きな崖を下って、崖の真ん中まで逃げたんだ。でも俺は諦めきれなくてな、岩を慎重に掴んでカメレオンの所へゆっくりと下って言ったんだ。」 30匹以上のチンパンジーの大群に襲われた話。 「……そしたらいっせいに猿がうんこをなげてきてな。あれはもう、たまらんかった。空1面もう茶色だ。茶色。しかもめちゃくちゃ臭いんだ。俺は3日も寝れなかった。激臭だ。」 パイが大好きなパイおばさんの話。 「……絶対にパイなんだ。朝も昼も夜も、俺が出ていく日の激励の品もパイだった。」 どれも面白かった。 「なんだ、面白い事いっぱいあるじゃないか。」 僕は笑い涙を拭って言った。 「まあ、辛いことばっかりではないよ。面白いこともちょこちょこあるさ。」 「いいな。僕、少しおじさんが羨ましいよ。」 僕は頭を掻いて言う。 「僕、ずっと料理と酒を運ぶだけで、ずっとやってる事が一緒なんだ。つまんないよ。」 おじさんはフム……と口に手を当てて言った。 「……まあ、もっと楽しい事しといた方が人生は面白い。賄いチキン生活だったらいつ死ぬかわからんしな。」 「そうだよね。」 おじさんはグラスをクイッと顔の上でひっくり返し、最後の酒を口へ流し込んだ 「……なんてな!無理に変わる必要なんてない。まあ、そろそろ寝るかな。マックも帰りな。昼はうるさくて寝れねえんだろう。」 僕はハッとしてかけ時計に目をやる。0時をすぎていた。 「そうだね。おじさんは、明日はいるの?」 僕は気になっておじさんに聞いた。 「ああ。いるぞ明後日出発だから、それまでここで身体をやすめようと思っている。」 「良かった。もうお別れかと思ったよ。」 僕はほっと胸をなでおろした。 やはり、せっかく仲良くなったのに、すぐにもうお別れなんて少し嫌だったから。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加