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「ああ、旅の者だ。だから仕事はしてない。」
小汚い格好だから、山で山菜を取ってきたのかと思っていた。
だが、おじさんは旅人だったのか。
確かに言われてよく見るとそういう感じもする。
「嘘じゃないよね?」
「俺が旅人なんて嘘つくか。嘘つくんならもっとましな職を言ってるぞ。国の兵士……とかな。」
「いや、旅人っていいじゃないか。知らない土地へ歩き回って、色んな人に出会う。本で読んだけど、少年の頃はみんなの憧れさ。」
僕はそうやって旅人の想像をする。
「まあそうだな。今だって俺は君に会えて楽しい。でも旅は危険でいっぱいだ。俺と一緒に旅をしていたやつが1人死んだ事がある。だから、旅をするならそれなりの理由がある方がいい。」
僕はおじさんの話を聞きながら、おじさんの表情を伺う。
顔が曇ったかと思うと、ふと僕に気づいてにっこり微笑む。
「おじさんも大変なんだね。」
「ああ、大変だ。夢を壊すようで悪いな、マック。でも俺はこの生活が好きだぞ。死んだ友人に会えたのも、俺が北へ向かっているおかげだからな。」
おじさんは手首を上下にひねって、グラスの中のウイスキーを回した。
おじさんは今何を思っているんだろう。
僕の想像がつかない事かな。
ボーッとウイスキーを見つめるおじさんは、そのままクイッとウイスキーを煽った。
そして一息つく。
「ふぅ。さあ、旅の話を聞くか?マック。おじさんが七色に輝くカメレオンを捕まえた話をしよう。」
「えっっ!何それ」
「珍しいと思ってな、金になると思って血眼になって捕まえたんだよ。俺が渓谷の多い土地を歩いていた時のことなんだが……」
僕はおじさんの旅の話を聞いた。
七色に光るカメレオンの話。
「……んで、素早く逃げたカメレオンがな、大きな崖を下って、崖の真ん中まで逃げたんだ。でも俺は諦めきれなくてな、岩を慎重に掴んでカメレオンの所へゆっくりと下って言ったんだ。」
30匹以上のチンパンジーの大群に襲われた話。
「……そしたらいっせいに猿がうんこをなげてきてな。あれはもう、たまらんかった。空1面もう茶色だ。茶色。しかもめちゃくちゃ臭いんだ。俺は3日も寝れなかった。激臭だ。」
パイが大好きなパイおばさんの話。
「……絶対にパイなんだ。朝も昼も夜も、俺が出ていく日の激励の品もパイだった。」
どれも面白かった。
「なんだ、面白い事いっぱいあるじゃないか。」
僕は笑い涙を拭って言った。
「まあ、辛いことばっかりではないよ。面白いこともちょこちょこあるさ。」
「いいな。僕、少しおじさんが羨ましいよ。」
僕は頭を掻いて言う。
「僕、ずっと料理と酒を運ぶだけで、ずっとやってる事が一緒なんだ。つまんないよ。」
おじさんはフム……と口に手を当てて言った。
「……まあ、もっと楽しい事しといた方が人生は面白い。賄いチキン生活だったらいつ死ぬかわからんしな。」
「そうだよね。」
おじさんはグラスをクイッと顔の上でひっくり返し、最後の酒を口へ流し込んだ
「……なんてな!無理に変わる必要なんてない。まあ、そろそろ寝るかな。マックも帰りな。昼はうるさくて寝れねえんだろう。」
僕はハッとしてかけ時計に目をやる。0時をすぎていた。
「そうだね。おじさんは、明日はいるの?」
僕は気になっておじさんに聞いた。
「ああ。いるぞ明後日出発だから、それまでここで身体をやすめようと思っている。」
「良かった。もうお別れかと思ったよ。」
僕はほっと胸をなでおろした。
やはり、せっかく仲良くなったのに、すぐにもうお別れなんて少し嫌だったから。
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