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家に帰ると、中は少し肌寒かった。フラリフラリと、僕は体も洗わずベッドへゴロンと寝転がると、
大きくため息をついた。
おじさんと、おじさんの話してくれた体験談が蘇ってきた。
危険と隣合わせな生活なのだが、とても楽しそうであった。
「いいなぁー……」
手を頭の後ろに回すと、僕は目を瞑った。
僕は初めて自分の生活を改めて見つめ直した。
飯を食って、掃除して、クソジジイ達の接客をして、重い酒を運んで、帰る。
僕はこのままこうやって死んでいくのか。
客にも、自分にも感謝をされない。やりがいもないままに時間を使って。
僕はあんなクソジジイ達に命を使って死んでいくのか。
公園の方から涼しげな虫の声が聞こえる。
ジージージージリジリジリ。
りんりんりんりん。
夜鳥の鳴き声が静かにホーホーと聞こえた。
静かな闇の中、少年は今現在の自分を見つめ返す。
窓からさす薄い月明かりが少年の目がパチリと開くのを照らした。
「……いや、まだ僕は変えられる。」
ムクリと起き上がった少年は、スーッと引き出しからマッチを取り出してロウソクに明かりを灯した。
ジジジッとかすかに小さな音がなって部屋が明るくなる。
暗がりの中、布袋の前でうーんと数分考え込んだ少年は、
袋にとりあえず1番お気に入りの本を入れた。
……
「俺に着いてくるだって!?本気で言ってるのか?」
「ああ、行かせてくれ。」
「……うーん」
次の日の昼、袋を持ってマックはおじさんの元へ訪れた。
宿の部屋の入口だ。
おじさんは口に手を当ててマクの事を見る。マクの目はとても真剣だった。これは簡単に説得出来そうにないな。
「なあマック。」
「うん。」
「お前は若いんだからまだ早死する必要は無いだろう。」
「……死ぬのは確かに嫌だけど、それは僕が決める事だよ。死に方は僕が決めたいんだ。」
「マック、明日死ぬかもしれないんだぞ。」
「……そんなの酒屋やってても明日死ぬことはある。連れてってくれ。おじさん!」
おじさんは少し考えてからこう言った。
「…………ダメだ」
「っっ……!なんでだよ!」
おじさんは静かな目で僕を見て、こういう。
「俺がヤダだから!!!!」
「!!!」
確かに、大人になりたてのガキがついて行きたいって言うと、めんどくさいのかもしれない……
「僕が邪魔だからなのか……」
マクがそう悲しそうに言うと、おじさんは首を横に振った。
「いいや。邪魔とかではない。むしろ、旅の連れができるのは楽しいんだ。俺は嬉しいよ。」
「ただ、マックは俺より年下で若い。きっとマックに危険が迫ったら俺は君を助けるだろう。」
「でも君が助からなかったとしたら?俺の前で山賊にぷっすり刺されちゃったら??俺がマックの事を殺したような気になる。」
「ああ、あの時、俺が旅に連れて来なければ良かったなと。しかも若い命をだ。俺は旅に連れて来たのを後悔するだろう。」
「だから、ぜったいヤダ!!」
僕は何も言えなかった。
おじさんの気持ちをちっとも考えて見なかったからである。
僕も同じ状況だったら、僕も断るだろう。
僕は立ち尽くしていた。仲間に入れてもらえると思い込んで昨晩からワクワクしていたんだ。
「まだ酒場辞めてないか?……そう、なら良かったな。まだ働ける。」
おじさんは僕の肩をぽんぽんと叩いて励ますと、部屋へ入っていく。
「じゃあな。マック。また生きてたら会おうな。」
ゆっくりとドアが閉まって行く。
マクはなにか言おうとしたけど、とうとうドアは閉まってしまった。
ホテルの部屋の外で、マクは静かに立ち尽くして、しばらくすると、とぼとぼ帰っていった。
この事は、旅人のおじさんにも分かっていた。部屋のドアには覗き窓がついていたからである。
自分がドアを閉めてからマクが帰るまで、マクの事を見続けていた彼は、
「ふぅー」と深いため息をついて、困った様に頭をかくと、
ベッドへ飛び込んだ。
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