マクと洞窟の宝

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それを聞いて僕は顔の前で拳に力を入れた。 「二言はないね!!おじさん!!遠慮しないよ!」 「いいよーほらやろう」 おじさんはフラフラと拳を僕に向かって振った。 おじさん……ベッド争奪戦って言うのに気軽過ぎないか。 ベッドだぞ。ベッド。 まさかっっ!何か勝算があるのか……!? 「じゃあ行くぞー。じゃーんけーんぽんっ。」 おじさんの抜けた声で出した手は、僕はグーでおじさんがパーだった。 「ぬあああああああ!!!!」 「俺ジャンケン強いからね。今度は勝てるといいな?」 「明日は勝つからな!!くそお!!」 おじさんはケケケと笑って軽く身支度をする。 「ん、おじさんどっか行くの?」 「ああ、ちょっと金を稼ぎに行く。」 「え、おじさん仕事できるの?…………大道芸とか?」 おじさんがピエロの格好でジャグリングしてるのを想像して言った。 ちょっと笑える 「ばぁーか。そんなこと言うやつには教えてやんねーよぉーだ!」 おじさんが赤い下まぶたをベェー!と僕にみせてドアの前へ歩いていく。 「あ、そうだマック。どっか行くなら気をつけろよ。街で知らねえやつって言うのは狙われやすいんだ。」 「うん、分かったよおじさん。おっとと、」 おじさんからなにかクルクルと回って飛んできた。 キャッチすると、銀色の硬貨だった。 ぱっと顔をあげるとおじさんはもう居ない。 僕は頭を掻きながらボソリと呟いた。 「案外優しいところあるんだな……」 ──銀硬貨……ちょっとしたご飯を1食たべたり、ビアルを1杯飲める値段だ。 「久しぶりに焼き魚を食うのもありだな。1週間ずっと固くてまずい携行食だけだったし。」 ブツブツと僕は立ち上がって、部屋中を歩き回る。 「でもやっぱ、金色の……いやでもな……」 ビアルはどこでも飲める。魚は新鮮じゃなきゃ食べれないから限られた場所じゃなきゃ食えない。 でも疲れた体にキンキンのビアル…… 「…………」 僕はブンブン頭を横に振った。 「よし!魚を食べよう!」 そう言って僕は宿を出た。 ……………… 「なんでだ!!!」 僕は怒りにも満ちた声でそう叫んだ。 口に白い髭を付けながら。 目の前には半分になったビアルがそこにある。 「うまい……美味いけどなぁぁ……くそう……」 細く高い声で僕は1人悔しがった。 後ろを通った客はカウンターに酔っ払いが居ると勘違いした。 ……どうしてこうなってしまったんだ。焼き魚屋さんに並んでいたのに。 気づいたらこうなっていた。 「ちくしょう!うまい!!」 二口目をぐいーっと飲んだ後に僕はそう叫ぶ。 店のマスターが、「ビアル1杯でだいぶ酔っ払っているなぁ」と勘違いをした。 「やあ。君結構飲んでるね。」 僕の隣に男が座ってきた。 僕と同じくらいの歳の男だった。 でも彼は僕より背が高かった。僕が小さいからなんだけど。 短髪で、髪がツンツンと立っていて、元気そうなやつという感じがする。 「いいや、まだ一杯目だよ。それに今日は軽くしか飲まない。」 「そうだったのか。それは失礼なことを言った。美味しそうに飲んでるね。俺もビアル飲もうかな。」 青年は手を挙げてマスターにビアルを頼む。 「君、なんであんなに独り言言ってたんだ?」 僕は事情を話す。 青年は笑いながら聞いてくれた。 「へえ、そうだったのか!魚を食べに来たのにいつの間にかここにね。」 「そうなんだよ。僕はいぞんしょうなのかも知れないよ。」 「間違ってないのかも」 「おいっ」 はははとわらえる奴だった。青年はカムサエルと言った。長いからカムスと呼ぶ事にした。 色々話をした。前の職場や、旅の過酷さや、意地悪なおじさんの話もした。 僕は調子が良くなってきて、実家から隠して持ってきた貯金を使って、ビアルをもう一杯だけ頼んでしまった。 「これで最後にしよう。なんで美味しいものって高いんだろうなぁ。」 「そうだな。マクは魚が食べたいんじゃなかったの?」 金があるなら魚を買えばいいのに。カムスはそう言ってるようだった。 「楽しい時はお酒でいいんだよ。気にするな。」 貯金を崩してまで魚を食べたいとは思わなかったが、ビアルはあともう一本だけ頼めた。 世の中には不思議がいっぱいだな。 「良かったら君に魚をご馳走させてくれよ。」 カムスは笑顔でそう言った。
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