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「それでは、今日の講義はこれで終わりたいと思います」
頭のはげた教授は、小さく頭を下げて、教室を出ていく。
学生達は次々に席を立つ。私は一番後ろの席で、皆の動向を見つめる。
「Reiya」はもうすっかり人気作家になっていた。フォロワー数も増え続け、作品のレビュー数もぐんぐん増えていた。私みたいな一参加者なんて、気にもしないレベルだろう。もう以前みたいな私だけのお気に入り作家ではない、きっと投稿サイトでも、名を馳せていくのだろう。
教室はほとんど人がいなくなっていた。一番前の席、一人の学生が残っていた。川口君だ。彼はまだ、黒板の講義内容を書き写していた。
サイト内では、彼は、私の手の届かないところまで離れてしまった。しかし、現実世界では、文字通り手の届く場所にいる。今日、私は、彼に話しかけようと決めていた。
気づいたら教室は、私と川口君の二人きりになっていた。ここに来て絶好のチャンスが巡ってきた。私は立ち上がる。そして、ゆっくりと彼の元へと歩いていく。彼との距離が近づくにつれて、私の心臓の音が大きくなっていく。あと数メートル、もうすぐというところまで来たとき、彼が急に立ち上がる。そして、こちらを見向きもせず、そそくさと教室を出ていった。私は唖然としてしまう。最大のチャンスが瞬く間に逃げていった。
いや、まだだ。私は慌てて彼の方へと駆けていく。
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