噂の川口君

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「ねえ、久美子。川口君ってカッコいいと思わない?」  向かいに座る里香が、ミニトマトを頬張りながら言った。  大学の食堂は賑わっていた。私と里香はいつも通り一番窓際の席に着き、Aランチセットを食べていた。 「川口君?」  私の言葉に、里香はコクリとうなずいた。 「背も高くてイケメンで、物静かだし、カッコいい要素しかなくない?」  私はフォークでパスタを巻きながら、川口君のことを思い浮かべる。  川口君は私と里香と同じ学部だ。話をしたことはないが、毎日顔を合わせている。 「確かに、身長も高いし、顔も美形の部類に入るかもしれないけど」 「でしょ!」  里香が目を輝かせる。 「でも、なんか冷たい印象があるというか。あんまり取っ付きにくいような」 「いやいや、そこがまた良いんじゃない。クールというか」 「そうかなあ」 「そうそう。あっ!」  里香が目を見開いていたので、その視線を追ってみる。すると、食堂の入口、食券を買っている川口君の姿があった。 「やっぱりカッコいいなあ」  里香の目は完全にハートマークになっていた。私はそんな彼女の姿を見て、はあっと大きくため息をつく。  もう一度、川口君の方を見る。開いているのか開いていないのか分からないほど細い目は、鋭く、冷たい印象を受ける。彼は基本的にいつも一人だ。彼が話しているのも見たことなければ、笑っているところも見たことがない。  里香の方を見ると、まだ彼女は川口君を見つめていた。 「ご飯、冷めちゃうよ」  そう言って彼女は手を動かすが、その目は彼の方を見たままだった。
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