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創が鞄から手を出したとき、その手にはチョコレートのシリアルバーが握られていた。
「あの、私は何かおかしなことを言ってしまったでしょうか」
「なんでもない、それより今はまず、あの怪物をなんとかする方法を考えよう。君が初めて怪物に襲われた時の話を聞かせてほしい」
「三角創さん。無茶な考えはおやめくださいです。あんなに大きくて恐ろしいものを私たちのような子供がどうにかできるものではないです」
「それを判断するのは話を聞いてからでも遅くない、少し長くなるかもしれない。これを二人で半分に分けよう」
創は鞄から取りだしたチョコレートのシリアルバーを半分に折ると、その片方を白守に向けて差し出した。しかし、差し出されたチョコレートを前に、白守は不自然に視線を逸らした。
「こ、こんな高価なものはいただけませんです。私は、その、お気持ちだけで、お腹いっぱいです」
「それは世の理?」
「え、遠慮です」
それを聞いた創は無理やり白守の手にチョコレートを握らせた。白守は豆腐を落とさないように皿を片手で持ち直してから、手の中にあるチョコレートをまじまじと見つめた。
「僕は君を知らないから、もう、君が持っているそのチョコレートをもらうことはできない」
白守は大きな生唾を飲み込んだ。
「それでしたら仕方がありませんので、いただくことにするです」
少女は恐る恐るチョコレートを小さく齧った。その小さな欠片を口の中で何度も何度も噛みしめて、それから二口めを齧り、三口齧り、最後には口いっぱいになるほどにチョコレートを頬張って、口の周りについたチョコレートにも気が付かないほど夢中な様子で食べ終えた。
白守は思い出したかのように顔をあげると、その様子を見ていた創から顔を隠し、いそいそとハンカチで口の周りを拭きだした。
「ど、どうも、ごちそうさまでしたです。しかしレディーの食事を観察するなんてあなたも趣味が悪いです」
「口に合わない?」
白守は、一つ咳ばらいをしてから口を開いた。
「けっこうなお手前でした、とだけ言っておくです。お礼に怪物とあった時のことを教えてあげるです。私が初めて大きなお化けにあったのは、二年ほど前のことでした」
創は自分の分と言ったもう半分のチョコレートを鞄にひっそりとしまった。
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