第四話 あたしの名前はユーラシアひかりん

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 唐突に二人の前に現れた少女は怪物に全く引けをとらず、大立ち回りを始めた。振り下ろされる掌に対して透明な障壁を張り、巨体が怯むような衝撃波をステッキの先端から放出して応戦する。少女が躍動するたびに長いツインテールが(ひるがえり)り、桜色のフリルがふわりと浮き上がる。一方の怪物もその質量にものを言わせて少女を叩き潰そうと必死に見えた。  一般の中学生男子など入る余地のないレベルで繰り広げられる一進一退の攻防であったが、創は口を挟んだ。 「紬! 危ないから早くここから離れるんだ!」  大きな声を出すことなど滅多にない創だったが、喉が張り裂けんばかりの叫びだった。  二人の目の前を縦横無尽に飛び回る少女は、創の妹の紬と全く同じ顔をしていた。  創の叫び声に気が付いた様子の少女は、華麗なステップで怪物の股の間を通り抜ける。その瞬間、衝撃波で足をすくいあげると怪物は大きく後ろに転倒した。  寄せ合う二人の前まで駆けつけた少女は、ほんの三センチくらいのところまで顔を近づけて創をまじまじと見つめる。 「あたしに逃げてなんて言ったのはこのお口かな? あんまりおもしろいこと言ってると先に成敗しちゃうよっ」 「紬、大抵のことは大丈夫だよ。だけど今回ばかりは僕のいう事を聞いてほしい」  創は冷静な口ぶりで、子供を諭すようにこんこんと話しかける。しかし少女は創の鼻先を指で軽く突いてから、あかんべぇをしながらピースした。 「ご心配なく! あたしはあなたの言う紬ちゃんじゃない、次元の彼方からやってきたトラベラー、ユーラシアひかりんだよっ」 「後ろ! 紬さん、後ろ!」  杏実は少女の後ろを指さした。少女が振り返った先には、さらに巨大化した怪物の姿があった。体は赤みを帯びて、顔の正面についた大きな目玉はひどく充血している。 「だから、紬ちゃんじゃないってのに。まぁいっか、さっさと片付けちゃいましょ」  怪物はもはや一軒家ほどもありそうな掌を大きく振りかぶった。一方の少女はステッキを両手で持つと怪物の目玉に向けて照準を合わせる。怪物の掌は鎌鼬(かまいたち)のような旋風を巻き起こしながら、少女目がけて振り下ろされる。 「あなたに恨みはないけれど、次元の彼方へパラレルパラレル、っとね!」  少女がウィンクした瞬間ステッキから発射された衝撃派は、怪物の掌に風穴を開け、なお勢い衰えず怪物の目玉まで貫いてから、空の果てまで飛んでいった。すると怪物の体は風に散る灰のように脆く崩れ去り、すぐにその姿はたち消えてしまった。  洗濯でも終えたように「ふぅ」と額をぬぐった少女は二人のいる場所を振り返る。 「さてと」  少女のステッキが今度は二人に向けられる。 「次はあなたが観念する番よ」  その矛先は、創の影に隠れた杏実の顔を捉えていた。
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