第3話 二人の精神疾患

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第3話 二人の精神疾患

「母さん飯」 大きな声が小さな家の中に響きわたる、健一の声だ。 「また、納豆と味噌汁だけかよ」 さらに響きわたる、一見幸せそうな家族にみえそうだが実は違う。 「父さん、また朝から酒飲みやがって」 そう、父はアルコール依存症であった、俗にいうアル中である。 健一は父が朝からお酒を飲んで働いていないことに対して 憎しみともいえる感情を持っていた。 しかし、もっと深刻な問題もあった 健一の兄が精神的な疾患を患っていたのだ。 瀬山先生は怖い 瀬山先生は怖いけど可愛い 家の近くに飛行機が飛んでいる 瀬山先生、怒らないで 幻覚、幻聴である、家族の最も恐れていることであった。 兄の異変に気づいた母と健一は すぐさま病院にすすめるも説得して病院に連れていくまで1時間も要した。 みつる、早く病院に行って良くなろうね」 そうだよ、兄ちゃん 瀬山先生は怖い、でも可愛い 瀬山先生が捕まえに来る 母は辛かった、子供が可哀そうに思えるからだ。 自ら産んで育てた子供の今の姿を見るのは耐えられないものがあった みつる、どうして どうして 病院に到着して待合所で待っている時間の長さ こんなに長い時間は母にとってどれだけ辛かっただろうか 「山村さん、診察室へどうぞ」 「瀬山先生、怖い」 「兄ちゃん、早く行って早く帰ろう」 最も悲しく心が凍えてしまいそうな瞬間だ いっそのこと時を無くしてしまいたい、 ほのかな灯りをとぼすような先生の笑顔に対して説明は残酷だった 「幻覚や幻聴が強くみられますね」 「しばらく入院しましょう」 「保護室に数日は入院になります」 保護室とは一人だけの空間になってしまう部屋だ それは医師やスタッフもつらいこと 「保護室でよろしいですね」・・・・ 「保護室でよろしいですね」 「はい」 はいとは言いたくもない、そのような空間なのだ 「それでは」 「ガチャ」  病院内を冷たく響きわたる音がした 「保護室から一般病棟に移る場合は連絡いたしますので」 「はい」 親にとってどれだけ悲しい出来事であったであろうか それを救いの手を差し伸べるように健一が温かい言葉をかける 「お母さん良かったね」 「これでよくなるよ」 「母さん、今日は疲れただろう夜は納豆と味噌汁だけでいいよ」 「兄ちゃんもきっとよくなるよ、心配しないでいいよ」 「大丈夫だよ」 「お母さんも早く休んで」 健一は、小学生ながら兄と母への、ひだまりのような優しさを持ち合わせていた この優しさが、もう一人の主人公である健一の最大の魅力でした 静香を支える健一の優しさの原点です
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