第4話 ホタル

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第4話 ホタル

はい、はい、はい 校庭美化係がいいです 続いて、クラブ活動を決めましょう 本庄さんは美術クラブですね はい 「はい、はい、はい」 「俺も美術クラブがいいです」 「本庄さん、学級係もクラブもたまたま一緒だったね」 クスクスクス 校内に二人の声が澄み渡る。 単にクラブ活動や学級係を決める時でさえ 二人の心は見つめ合います。 静香が校庭美化係を選択した理由は単純でした 花が好きだからです。 健一が校庭美化係を選択した理由も単純でした 静香と一緒にいたかったからです しかし、それは静香の選択は辛いものでした 健一は彼女がしゃがむことができないことに心を痛めます 静香の辛く痛々しい表情、健一は何かをしなければいけないと思います。 本庄さん、この椅子に座っていてしゃがむのは大変だろ ありがとうございます 何もしなくてもいいから ほら、このピンクの花でも見ていて はい 「泣かなくてもいいよ、俺がさ本庄さんの分まで取ってあげるからさ」 ほら、これで本庄さんも草を取ったみたいだろ ありがとうございます ぶっきらぼうに見える健一は実はとても優しい心の持ち主なのです。 それは、もしかしたら家庭内での苦労より得られたものかもしれません 「ほら、本庄さん泣かないで、近くに小川があるんだそこに行ってみよう」 必死の健一の努力でした 静香の心の光を呼び戻すために 川には何かがあったからです 本庄さんに川に行こうと誘いますが 足のことを気にして首を縦にふりません しかし、静香を背負って川に行くことになります ただ川までは距離が少しあり段差もありました 健一と静香の距離はもうありません、段差もありません それでも静香を川まで導かせるのは 静香をなんとか励ましたいという強い気持ちによるものでした。 静香を健一が支え乗り越えて川に着きました 「本庄さん、もう少しだよ」 「はい」 「ほら、着いたよ」 静香はびっくりします 川の微かな流れる音、澄み切った空気 どれもが新鮮でした ここに座ろう はい 「もうしばらくするとホタルが飛んでくるよ」 時はもうその時刻をさしていた それだけここまで来るのに時間がかかったのです。 静香に辛い思いをさせないように 身を削りながらここまできたのです。 聞こえるのはあたりの川の音と二人の鼓動だけ 静香にはホタルとの初めての出会いでした 「あ」 「ほら」 「ホタルが飛んできた」 「肩の上にとまったよ」 「じっとしていて」 「ほら」 「わあ、きれい」 ホタルの灯りが二人を取り囲む。 あたりは薄暗い世界。 そこに小さな光の舞い おもわず、ふたりの心も舞い始めます。 しかし静香にはわずかながらの不安を感じていました。 静香には共存しているものがあったからです。 それは消えゆく光 しかし、それ以上に静香には幸せなひとときでした。 ホタルよりホタルという名の健一が存在していたからです。
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