829人が本棚に入れています
本棚に追加
梅雨のSS
連日の曇天~雨模様ですが、創作は捗ります。
昨日の17文字SSの続きを作りました。(つい、対の17文字も作りたくなるのです)
濡れないように二人は傘の中で……くっついたり譲り合ったり、雨降りでも、心も弾みますね♪
ここから飛躍して、翠と流の学生時代で妄想しちゃいました。
『忍ぶれど……』番外編SS ~雨の下校~
https://estar.jp/novels/25570850
****
「翠、また明日な」
「うん! 達哉、また明日」
角を曲がると、弟の流が立っていた。
無骨な青い傘を差して……膨れっ面だ。でも話しかけると嬉しそうな顔になるのを知っているよ。
「流も今、帰り?」
「あぁ。なぁ兄さんって……古典、得意だよな。ちょっと教えてくれよ」
「いいよ。家に帰ったらでいい?」
「いや、今がいい。他の勉強もあって時間がないから、歩きながら……」
流が無言で、青い傘を僕に差し出した。
えっと……どういう意味?
「入れよ」
「う、うん……でも僕は傘持っているよ?」
「道が狭いから、傘を差していると並べないだろう」
「あぁ、そういう事か。そうだね」
いい年して弟と一緒の傘に入るなんて、変な感じだ。
「それで、何が聞きたい?」
「古典の単語がサッパリ分かんねー」
「今。何をやっている?」
「えっと、伊勢物語の筒井筒だ」
「あぁ……『筒井つの 井筒にかけし まろがたけ 過ぎにけらしな 妹見ざるまに』という歌のだね』
筒井戸の井筒と背比べをした私の背は、もう井筒を越してしまったようだなあ。あなたに会わないでいるうちに……
あれ? そう言えば……
「流、また背が伸びたな」
「もう、兄さんと並んだ」
「うーん、複雑だ」
「これからは越えていく」
「それは、もっと複雑だ」
いつの間にか目線が同じになっていて、不思議な感じだ。
幼い頃から行きつけの和菓子屋さんの前を通ると、店のおばあさんが手を振っていた。
「あらあら、すいちゃんもりゅうちゃんも、いつも仲良しでいいねぇ」
「すいちゃんか……久しぶりにそう呼ばれたな」
「男の子にいつまでも『ちゃん付け』って、どうかと思うが……まぁ兄さんとセットは悪くな」
「そういえば流は小さい頃、傘を持つの嫌がったよな。いつも僕の傘に入ってきて可愛かった」
「ははっ、今は逆だな」
流が笑う。
「え、だってお前が勉強がって言うから……あぁ話が逸れた。何を教えていたんだっけ?」
「くくっ、まだ何も」
****
兄さんが俺の傘に入ってくれた。
夢みたいだ。
憧れの相合い傘だ。
平静を装っても、胸の鼓動が早くなる。
ドキドキ……
ドキドキ……
傘の中は、二人の世界。
明日も明後日も雨になれ。
「流、もっとこっちにおいでよ。肩が濡れちゃうだろう」
兄さんの左肩と、俺の右肩がくっついた。
新しい熱が生まれる――
『忍ぶれど』と『色は匂へど』は、弟×兄の禁断愛ですが……結ばれるまでの月日のもどかしいこと。でもこういう関係、好きです💕
『色は匂へど』に、このSSのボリュームアップ版を掲載しました!
https://estar.jp/novels/25628445
最初のコメントを投稿しよう!