小話 月影寺の毬栗②

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小話 月影寺の毬栗②

おはようございます。うみです。 今日まではいいお天気のようですね。 昨日Tweetした内容と重複するのですが、エッセイではもう少し踏み込んで。 創作語り…… 平日は静かな環境で執筆出来るので、ほっとします。 土日は家族がいるので、執筆する作業場が思いっきりリビングのど真ん中なこともあり、集中するのが大変です。もうずっとこのスタイルなので慣れましたが。 昨日はふと……毎日1日2作品コンスタントに書き続けている自分を、褒めてあげたくなりました。セルフケアも大事ですよね💕 私も人間なので毎日いろんなことがあります。実際二人の娘の子育て中で、仕事もしているのでバタバタな日々です。そんな中でも創作はフラットな気持ちで書くことを心がけているのですが、毎回、同じグレードのものは、ご提供できなくて😭それでも毎回届けてくださるスターやペコメ、スタンプ等の反応に元気いただいていました。本当に感謝しています💕 日頃の感謝を込めて、エッセイではたまに即興で小話を置いています。読者さまとペコメのやりとりで浮かんだ話も多いです。 今日は『月影寺の毬栗』の続きです。 表紙まで作ってしまいました! c06da5ad-0533-47b7-876e-34dcd5c9a60b 月影寺の毬栗②  毬から取り出した栗をざるに並べていると、薙が下校してきた。 「流さん、何してんの?」 「あぁ、栗の下処理をしているんだ」 「へぇ、随分大がかりで大変そうだね」  薙の高校の制服は、ブレザースタイルだった。夏服は白いシャツにズボンと至ってシンプルな分、薙の爽やかな魅力を増しているような気がした。 「こうやって手間暇かけることによって、旨味が増すんだよ」 「ふぅん」 「薙みたいにな」 「おれは食い物じゃないよ」 「ははっ、薙、栗は好きか」 「おれはモンブランが一番好きだよ。ねぇこれで作ってよ」 「むむむ、ハードルが高いな」  夕刻、半日ほど天日に干した栗を水に浸けていると、今度は洋くんがやってきた。 「流さん、栗を水につけるのはどうしてですか」 「あぁ虫がついた栗を避けられるし、皮が柔らかくなり剥きやすくなるからだ。洋くんも栗が好きなのか」 「ふぅん……あの、俺は栗きんとんが好きです」 「へぇ、意外だな」 「そうですか。何だか食べたくなってきたな。あれは美味しいですよね」  ペロッと赤い舌を出す洋くんは、色気が増していた。 「しょうがないなぁ……栗を剥いたら分けてやるよ。丈に作ってもらえ」 「そうします!」  翌朝、栗を大きな釜で茹でていると、翠が嬉しそうにやってきた。 「あぁ、やっと茹でる段階まで来たんだね。本当に手間のかかること」 「翠は? 翠はどうやって食べるのが好きだ? 何でも作ってやるよ」 「僕? そうだね……僕は……流に食べさせてもらうのが好きだよ」 「‼‼‼」  流石、天晴れ……俺の翠だ。  今すぐ渋皮を剥いて、その口に放り込んでいやりたい衝動に駆られた。 「りゅ、流? 目が怖いよ。僕……変なことを言った?」 「無性に翠を食べたくなった」  翠の腰を抱き寄せ胸元を密着させて動きを封じてから、唇を頂戴した。 「なんで? んっ……ん……僕は栗を食べたいって……言っただけ……」    甘い口づけの後は、翠は少し恨みがましい目つきで、栗の調理台に前に座って、俺の手元を見つめていた。 「どうした?」 「流はずるいな、僕をドキドキさせるだけさせて、澄ました顔でずっと……作業をしている」 「悪かったよ。これ剥いてしまうまで、待っていてくれ」 「どうやって剥くの?」 「いいか……茹でた栗の皮を剥く場合は、まず栗の底の部分に包丁で切り込みを入れるんだ。切り込みを入れた部分に包丁を引っ掛け、栗の頭の方に向かって引っ張りながら剥くと、ほら、綺麗だろう」 「ふぅん……難しそうなのに、器用に剥くね。僕には無理そうだ」 「まぁ見てろよ。鬼皮を剥き終えたら渋皮を剥くんだ。りんご剥きの要領で栗を回しながら剥けばいいのさ」 「うんうん、本当に見事だよ。流の手は……見惚れちゃうよ」  よしよし、もう一声。  俺は、あの言葉が欲しい。  久しぶりに、聞かせてくれよ。  なぁ俺の腕前はどうだ?  俺の手は…… 「流兄さん、大変そうですね。手伝いましょう」 「じょっ、丈、いつの間に?」 「洋に急かされたんですよ。早く栗きんとんが食べたいと」 「なっ!」  丈は、相変わらず洋くんに甘いな。激甘だ。  そして洋くんは丈にそこまで甘えられるのか。  丈が余裕の笑みでマイ・ナイフを取り出し、見事な手捌きで次々と剥いていく。  くそっ、敵わないよ、外科医のお前には。 「丈は流石だね。やっぱり丈の手はゴッ……」  俺は慌てて翠の口を塞いだ。  モゴモゴ…… 「何をしているんですか。 真っ昼間からイチャついて」 「はははっ、翠、その先は夜、俺に言うべきことだろう」 「りゅ、流、こらっ、離せって」  翠がジタバタするのを抑えこむと、翠がふっと笑った。 「そういえば、不貞腐れて暴れるやんちゃな流を、丈と二人ががかりでこんな風に抑えこんだこともあったね」 「えぇ、よく覚えていますよ」  むむっ、丈がさり気なく口角を上げている。 「余計なことを思い出すなって。翠はもう勤めに戻れ」  結局その後は、丈と色気なしで栗剥きバトルをした。 「はぁ……丈のゴッドハンドには敵わん!」    疲れ果てた俺は……結局自ら、認めてしまった。 「ふっ、兄さんもなかなかでしたよ。じゃ、これはいただきますよ。あとはごゆっくり」 「あぁ、持ってけ、持ってけ!」  俺は呼吸を整え、剥いた栗を皿に載せて、翠の元へ向かった。  お望み通り、一粒、一粒、俺の手で食べさせてやろう。  翠の衣食住は、いつだって俺が担っている。     **** オチもない、何気ない月影寺の一コマでした💕 こんな和やかな日常描写もいいですよね。 私も彼等のように肩の力を抜いて、ゆったりした気分でいきたいです。 無理はしないようにしますね。 皆さんも💕 今日もよい1日でありますように🍀
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