こぼれ話の続き

1/1
前へ
/1352ページ
次へ

こぼれ話の続き

「翠、どこだ?」  びしょ濡れのアザラシから滴り落ちた水溜まりを辿っていくと、座禅場に辿り着いた。  ここは先日煩悩払いの会をした場所だ。  あの時は、みんな弾けて楽しかったな。   「翠、中にいるのか」  翠の行動は、おおよそ読めていた。  水を吸ったアザラシの重みに、俺の体重を感じてしまったに違いない。  可愛い翠。  俺がいつも翠を布団に押し倒し組み敷いているから、その重みまで記憶に留めてくれるようになったのか。  俺色に染まる翠。 「翠、出てこい!」    力強く呼ぶが、返事はない。  痺れを切らして中を覗くと、そこには誰もいなかった。  だが、足を踏み入れると畳がぐっしょり濡れていた。  横には警策 (坐禅で修行者の肩ないし背中を打つ棒)が転がっていた。  どうやらこの部屋で煩悩を払うことを試みたが無理だったようだ。  煩悩に塗れた翠を、早く助けてやらないと…… 「翠、どこへ行った?」 ****  流と僕だけの離れ。  その湯船にアザラシを沈め、僕は汗を拭った。  今日の僕……変だ。  こんなことで股間を昂ぶらせるなんて、寺の住職としてあるまじき姿。  そうか、袈裟を着ていないからだ。  水族館デートのために、今日の僕はタイトなズボンにニットというラフな姿だ。  この姿が、心を解放してしまうのだ。  早く袈裟に着替えよう。  着ていたものは、転んだ時についたアザラシの泥と水分で汚れ湿っていた。  脱衣場で潔く衣類を脱ぎ捨てると、大きな鏡に己の裸体が映し出された。  欲情した身体を目の当たりにし、くらりと目眩が……  僕……もう駄目だ。 「流……早く来て……欲しい」  そこに扉がガラッと開き、ヌッと流が現れる。 「あっ……」  脱衣場で全裸で佇む僕。  恥ずかしくて、くるりと後ろを向くと背後からギュッと抱きしめてくれた。 「翠……やっと俺を呼んだな。リューじゃなく、俺を」 「……こんなになったのは……全部、リューのせいだ」 「あぁ、そうだな。リューのせいだ」 「流……流……」  幼子を慰めるように流が抱きしめてくれる。  僕が守ってあげた小さな弟が、今は僕の恋人として僕を抱きしめてくれる。  それが嬉しくて…… 「翠……どうして欲しい?」 「解き放って……欲しい」 ****  今日はコメディではなく、兄弟BLらしい展開になりました!  
/1352ページ

最初のコメントを投稿しよう!

825人が本棚に入れています
本棚に追加