幸せのクラムチャウダー

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幸せのクラムチャウダー

「ただいまー」  夕飯の買い出しから戻った私は、靴を脱ぐよりも先に、ドサっと両手の荷物を降ろした。  リビングからドタバタと騒がしい音が聞こえているが、出迎えに来る様子はなく返事すらない。  スーパーの買い物袋の中で、ジャラッとあさりが音を立てた。  今日の夕飯は何にしようか。  決まっているのは、クラムチャウダーを作るということだけだ。  今日は夫も仕事が休みで、久々にゆっくりと家族で過ごすことが出来た。  こういう気分が良い日には、なぜか私はクラムチャウダーを作りたくなるのだ。  あと一息と、私は再び重い買い物袋を持ち上げ、これまた再び「ただいまー」という声とともにリビングの扉を開いた。  目に飛び込んできたのは、楽しそうに走り回る5歳の息子と愛犬の姿。ここまではいつも通りの見慣れた光景だ。  いつもと違うのは、彼らの駆け巡った跡がリビングのそこら中に、茶色い汚れとなって私の目に見えているということだ。  フローリングはもちろん、アイボリーのカーペットまで汚れている。  笑顔でキャッキャと追いかけっこをしていた彼らだが、最初に私の姿に気付いたのはトイプードルのモカだった。  ピタッと動きを止めたモカにつられ、息子の陸もその足を止める。 「・・・・・・りっくん?裸足のままお庭で遊んじゃダメって、いつもママ言ってるよね?」  陸の表情からは『しまった!見つかってしまった』という心の声が漏れている。  「ごめんなさい」と上目遣いで謝る我が息子の姿に、こんな状況でさえ愛おしいと思ってしまうのだから、親バカもほどほどにしなければ。  ここでようやく、私はあることに気付いた。 「あれ、パパはどこに行ったの?」  「んーとねぇ、パパはねぇ・・・・・・」と陸がリビングから洗面所へと繫がる扉に視線を向けたところで、タイミングよくその扉は開かれた。 「陸〜、モカと一緒に足洗うぞー。早くしないとママが帰っ・・・・・・」  濡れたタオルを手に、私の姿を見て固まる夫の表情からは『しまった!見つかってしまった』という心の声が、陸と同様に漏れている。  『さすが親子』などとつい感心していると、ふと夫の足元が気になった。 「あれ、何で靴下履いてるの?」 「え・・・・・・?」
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