幸せのクラムチャウダー

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 夫は大の靴下嫌いなのだ。  夫曰く「足が締め付けられるっていうか、なんか窮屈な感じがして嫌なんだよね」だそうだ。  そういうわけで夫は、どんなに寒かろうが家で靴下を履くことはない。  それにもかかわらず靴下を履いているということは・・・・・・。 「パパ、靴下脱いで?」  「え・・・・」と夫は一歩後ずさる。 「パパ?」  私の圧に観念したのか、夫は「ごめんなさい」という言葉とともに靴下を脱いだ。  灰色の靴下の裏側は、足の形がはっきりとわかるほど茶色く汚れている。  「俺も楽しくなっちゃって、つい・・・・・・」と言った夫の足裏は、踏み潰した芝生の緑と土の色で汚れていた。 「何でパパまで一緒に遊んじゃってるの!?ああー、もう知らない!フローリングもカーペットもちゃんと全部、パパが綺麗に掃除してよね。私は知らないからね!とにかく全員早く足を洗ってきなさい!」  私は矢継ぎ早にそう言い放つと、買い物袋を手にキッチンへと向かった。  『クラムチャウダーは今日はやめだ』と思いながら、買ってきたアサリや玉ねぎ、人参を冷蔵庫に入れる。  せっかくの休日、気持ちよく終わりたかったが、掃除してからわずか数時間でこんなにも汚れてしまったリビングを前に、とても今はクラムチャウダーを作る気分ではない。  買ってきた大量の食材を冷蔵庫に片付け終わったのと時を同じくして、足を洗い終わったのであろう彼らがリビングへと再び姿を現した。  夫は少し落ち込んだような反省した面持ちで、一人せっせとリビングの足あと汚れを濡れ雑巾で擦り落としている。  すると、どこから雑巾を持ってきたのであろうか。陸も夫の真似をして一生懸命、床の拭き掃除を始めた。  しかし陸のそれは、拭くというよりも撫でると言った方が良い。  夫と息子のそんな光景を見ていると、悲惨なリビングの状況すら面白く、微笑ましいものに思えてくる。  なんだかカーペットに浮かぶ土汚れの跡も、まるで幸せの足あとのように見えてくると言ったら、さすがに幸せボケだと笑われるだろうか。  やっぱり今日はクラムチャウダーにしよう。  必死に自分たちの足あとと格闘する二人を横目に、私は冷蔵庫から食材を取り出し、夕飯の支度に取り掛かるのであった。
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