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夕暮れの空。
さいごに一際、鮮やかに朱色が光り──そして消える。
やわらかな薄藍が向こう側から空を徐々に侵食する。
星歌の腕と、行人の手元で白い星が互いにぶつかって軽やかな音階を奏でた。
「ま、まぁまぁ。姉弟がそろって異世界に行くってのはどんな感じだろうね。モテ度でいくと、せめてあっちの世界では私の方が上であってほしいもんだよ。せめてね、人生で一回くらいモテ地獄を味わってみたいもんなんだよ」
「……たとえ異世界であっても、星歌にはそんなモテ期は訪れないよ」
「お、お姉ちゃんをバカにしてるな!」
気色ばむ星歌の前に、行人の呆れ顔。
「言ってるだろ。俺は星歌を姉としてなんて見たことないって」
「うっ……」
見事に顔を赤らめる星歌。何だか、誤魔化されたみたいで腹が立つ。
あのとき、美術室で行人から大切だって言ってもらえたこと──それだけで今はうれしい。
でも、自分の方がずっと行人のことを大事に思っているのに──そう思うとすこし悔しい。
「で、でも、アドレス帳には『姉』って入れてたんだって?」
「五十音順で一番上にくるだろ。星歌が騒ぎを起こしてもすぐに対処できると思って」
合理的判断だよと、行人は小憎らしい面をする。
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