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残念、星歌はホレっぽい
人差し指と親指が触れた唇からは、昨夜のような熱は感じられなかった。
「うにょーん」
指ではさんで引っ張ってみる。
薬用リップの油分で手はすぐに滑ってしまった。
うろたえて家を出たせいか、グロスすらつけてはいないことにようやく気付く。
見上げる空──白く輝く太陽が、今の星歌にはとりわけまぶしく感じられた。
ひとり暮らしの行人の家は、星歌にとって第二の自宅。
化粧品も服も靴も、何となれば愛読書の異世界転生もののラノベだって置いている。
なのに、彼女は昨日着ていたレースの上着の下に男物のジャージ、そしてヒールというちぐはぐな服装で往来に立ち尽くしていた。
行人がこの姿を見ていたらさすがに止めたろうが、彼は最近忙しいらしく星歌が目覚めるより先に家を出ていたのだ。
正直、顔を合わさず済んだことにホッとしている。
弟の顔なんて見てしまって、夕べの唇の感触なんかが蘇りでもしたらどんな顔をすれば良いやら、考えただけで途方に暮れてしまうからだ。
「あれは事故事故。まったく、異世界どころじゃないよ……」
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