残念、星歌はホレっぽい

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 どうやらパン屋がオープンしたようだ。  星歌が見ているのは、そのパン屋の横の路地。  若い職人と女子高生。  彼女の足元に転がっている薄茶色の物体。  地面に押さえつけられたように、ぐにゃりと潰れてしまっているパン──それが全てを物語っている。  地面に転がったままのJK。  凍り付いたように動かないのは、ひとえに恥ずかしいからに他ならないと分かる。  荷物を抱えたまま固まる職人がいなければ、とっくに立ち上がって走り去っていただろうに、こうやって下手に心配されるとどう反応したら良いやら。 「……あの、大丈夫?」  いたたまれない。  あまりにいたたまれなくて、星歌はそろりと路地裏に入っていった。  新たな人物の登場に、女子高生がビクッと身を震わせる。  つまり、こういうことだ。  裏口からエントランスに回る途中で、職人がうっかりパンをひとつ地面に落としたのだろう。  たまたま通っていた女子高生が、それを踏んだ。  ズルリと滑って転んだのだ。  その瞬間を星歌が目撃したといったところか。 「ねぇ、大丈夫? 今、授業中じゃないの?」  じりじりと近付くと、弾かれたように女子高生が跳ね起きた。 「だ、だいじょぶです……あ、ほんとに。だいじょうぶですから……」
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