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落とした食べ物でも三秒以内に拾ったら、衛生面に影響がないというのが星歌の自論だ。
そのパンは明らかに三秒より前に落としたものだと分かるが、気にしたら負けである。
「そ、そのルールは飲食業界では最大のタブー……!」
職人が絶句している。
彼に背を向けて、星歌はようやく身を起こした女子高生に手を差し出した。
「す、すみません……」
俯いてしまっているが、髪の隙間からのぞく耳たぶは真っ赤に染まっている。
オロオロとした様子でゆっくりとこちらを見上げて、彼女は「あっ」と声をあげる。
「白川先生のお姉さん……?」
「えっ、あっ……そうだよ」
そうか、行人の教え子か──星歌が急に目をパチパチ瞬かせたのは、顔をあげた女子高生の放つ透明感にであった。
黒目に影を落とすほど長い睫毛。肌の白さは、頬の際の血管が透けて見えるほど。
まるでお人形のようだ。
同性ながら星歌が息を呑んだのも致し方のないことであろう。
同時に背中を冷たい汗が流れる。
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