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ニセ王子が一気に距離を詰めてきたのだ。
「じゃあ……じゃあさ、うちでバイトしない?」
息がかかるほど近く。
少女のように整った顔が近付く。
星歌は反射的に一歩、身を引いた。
「バイト? ここのパン屋さんで? でも私、パンなんて作ったことないし……」
パンどころか、食事もろくに作れやしない。
ひとり暮らしをはじめてから、スーパーの惣菜かコンビニ弁当ばかりだ。
弟の家に押しかけた際に手料理をせがむのが、唯一のまともな食事といえようか。
そんな彼女の前で、ニセ王子は「作んなくていいよ」と手を振ってみせた。
「僕は藤翔太。パン職人……の、まだ見習いかな。パンを作ったり、接客したりする予定。落ち着いたら、店番を手伝ってくれるバイトさんを募集しようって話してたんだ」
「うーん、でもなぁ……」
藤翔太と名乗ったこのニセ王子。
慣れ親しんだ様子でウンウンと頷いてみせる。
困っていたところを助けられたと感じているのか。
すっかり星歌に気を許している様子が窺える。
「兄がこの店のオーナーなんだ。もうすぐ来ると思うんだけど。一応フランスで修行してきたパン職人だよ」
「ほほぅ、おフランスで?」
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