残念、星歌はホレっぽい

12/14
前へ
/139ページ
次へ
 ニセ王子が一気に距離を詰めてきたのだ。 「じゃあ……じゃあさ、うちでバイトしない?」  息がかかるほど近く。  少女のように整った顔が近付く。  星歌は反射的に一歩、身を引いた。 「バイト? ここのパン屋さんで? でも私、パンなんて作ったことないし……」  パンどころか、食事もろくに作れやしない。  ひとり暮らしをはじめてから、スーパーの惣菜かコンビニ弁当ばかりだ。  弟の家に押しかけた際に手料理をせがむのが、唯一のまともな食事といえようか。  そんな彼女の前で、ニセ王子は「作んなくていいよ」と手を振ってみせた。 「僕は藤翔太(ふじしょうた)。パン職人……の、まだ見習いかな。パンを作ったり、接客したりする予定。落ち着いたら、店番を手伝ってくれるバイトさんを募集しようって話してたんだ」 「うーん、でもなぁ……」  藤翔太と名乗ったこのニセ王子。  慣れ親しんだ様子でウンウンと頷いてみせる。  困っていたところを助けられたと感じているのか。  すっかり星歌に気を許している様子が窺える。 「兄がこの店のオーナーなんだ。もうすぐ来ると思うんだけど。一応フランスで修行してきたパン職人だよ」 「ほほぅ、おフランスで?」
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

241人が本棚に入れています
本棚に追加