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薄い扉の向こうで、低い声が何事かぼやきながら近付いてくるのが察せられた。
「オイ、義弟よ。いいかげん開け……あうっ!」
「あっ、ごめん……」
勢いよく開いた扉が顔面を打ち、女はその場によろよろとうずくまった。両手で自らの鼻を押さえている。
「痛い。もうイヤだ。もう死ぬしかない……」
「やめなよ、星歌。こんな夜中に、人ん家の前で死なないでよ」
「そんな言い方はヒドイ……」
じっとり……。
恨みがましい視線が扉から出てきた男を見上げた。
部屋着にしたって地味なスウェットの上下。
しかしそれは彼の醸し出す華やかさを、むしろ引き立てる衣装となっていた。
細身の身体にまとった薄い筋肉は布越しにも分かる。
襟足の整えられた柔らかな髪。澄んだ双眸は、今は僅かに細められてこちらを見下ろしている。
飲み物を口にしていたのだろうか。男にしては厚い唇は艶やかに濡れていた。
整った容姿に一瞬、見とれる女の前で、その唇がゆっくりと開かれる。
「姉ちゃん、今日はかなりやらかし……ハッスルしたって聞いたけど?」
「……ハッスルとか言うな」
この男はいつも意地悪だ。
いや、彼なりに言葉を選んでくれたことは分かるが、それが余計に傷を抉る。
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