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星歌は鼻をすすった。
突然、目の前が霞んだのだ。
手で覆うより先に、ポトリ──瞳から大粒の雫が一粒。零れ落ちる。
行人は教師である。
義姉より生徒を優先することも、時として必要であろう。それは仕方がないと思う。
──ポトリ。
ふたつめの雫。
──行人のヤツ、さっきは私の方を一回も見なかったな……。
あのとき、彼の眼中にあったのは石野谷という生徒だけだった。
眼前でそんな姿を見せられたのだ。
溢れそうな三つめの雫を、星歌は拳でグイと拭った。
「だ、大丈夫か?」
明らかに狼狽えている翔太に対して反射的に笑顔を向けて、ノロノロとレジへ戻る。
ひどく身体が重く感じられた。
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