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鎌首
空に零した朱の絵の具が、涙でにじんだような夕焼けであった。
夕方が近付くにつれ、新規開店のパン屋には客が訪れるようになり、慣れない仕事に星歌は追われることとなる。
ガラス張りの間口は西に面しているのだろう。
すぐ向かいの校舎をバックに射しこむ夕陽の眩しさに目をしばたたかせる以外、外を気遣う余裕はない。
「白川さん!」
少し高い声で名を呼ばれ、星歌は「ヒッ!」と悲鳴にも似た返事をした。
昼間から翔太には注意を受けてばかりなのだ。
「お金の計算は丁寧に」だの「見栄えの良い商品の並べ方は」等々。
可愛い顔して、少々キツイところがあるのは確かなようで、星歌は心の中で彼を「デーモン」と名付けた。
「いや、それじゃあ閣下か……」
「チビデーモン」と新たに名付け直して、ひとりでウンウンと頷く。
人にあだなをつけるのって面白いよね……、と自分に言い聞かせながら。
できれば学校の方は見ないようにしながら。
「何笑ってんの、白川さん?」
「や、何でもないデス!」
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